How to Breathe

新刊哲学書の比較的詳細な書評

マーティン・ヘグルンド『ラディカル無神論』(書評)

    1

マーティン・ヘグルンドのデリダ論(『ラディカル無神論』)の明晰は称賛にあたいするものだが、それにはどうやら代償がともなっているようだ。ヘグルンドは、「望ましいもの」はすべて《変転しうること、頽廃しうること、そして汚されうるということ》を免れないといっているが、わたしは以下のポレミカルな書評が、この表現の真実を明かすものであったらと願っている。《これらの脅威は望ましいものすべてにとって本質的なものなのであって、それらが除去されることなどありえないのだ》。*1

*1:『ラディカル無神論』、吉松覚・島田貴史・松田智裕訳、法政大学出版局、2017年、18頁。以下、出典の明記しないすべての引用は同書から。

続きを読む

マルクス・ガブリエルを擁護するために

2018年10月臨時増刊号 総特集◎マルクス・ガブリエル ―新しい実在論― (現代思想10月臨時増刊号)

2018年10月臨時増刊号 総特集◎マルクス・ガブリエル ―新しい実在論― (現代思想10月臨時増刊号)


アントン・コッホが皮肉を効かせつつ指摘しているように、マルクス・ガブリエルは「ポスト構造主義者たちに対しては、[……]実在論を主張するが、ひるがえっては科学者に対しては、物理学を自体的存在の尺度に高めようとはしない中立的実在論を指摘する」。コッホのこの皮肉は、実在論を根底的に新しく転換的なものと見なす(ガブリエル自身の態度だけでなく)受容者たちの態度に向けられている。「書評欄では、実在論は革命的だということになっている。どうやらその責任者たちは、あまりに多くポスト構造主義者的な文献を読みすぎていて、専門文献を読むことがあまりに少ないようだ。というのも同業者たち、とりわけグローバル化されたアメリカの同業者たちのあいだでは、実在論が、しかも科学的実在論が長く揺るがしがたい根本教義なのだから」(118)*1。コッホの皮肉は従ってガブリエル自身に向けられたものというより、実在論が根底的に新しく見えてこざるをえないようなある視点に向けられている。より正確には、伝統の断絶そのものに向けられていると言っていい。というのもガブリエルの実在論に新しさがあるとすれば、まさにその伝統の縫合作用にあるようにおもわれるからである。

*1:『現代思想』2018年10月臨時増刊号。本誌からの引用は頁数のみを括弧内に表記する。

続きを読む